<計画の経緯>
敷地は多摩川とそれに沿って続く道路,それに私鉄の駅にほど近い位置にある。
そういった立地を考慮し,平日は電車通勤だが土日は自転車での走りもしくはジョギングを楽しむ,アクティブな人達を対象とした集合住宅(住戸数:16戸)のあり方を検討することとなった。
しだいに対象を「自転車好き」に特化することで,「共通の趣味を媒介とした新しい集合住宅の形式」を探る試行へとシフトしていった。
<現況と問題点>
敷地南側は,線路と駅のプラットホームといった,空地としては十分なスペースが確保されてはいるが,絶えず電車を利用する人の視線にさらされている。
北側は幅員20mほどの交通量の激しい幹線道路が走り,2階まではその影響を受けざるを得ず,3階以上の階でないと多摩川への視界も広がらない。
本計画は,このような敷地に16~17戸の集合住宅を計画するものだが,周辺の集合住宅を見ると,北側の道路に沿って外部片側通路南側にバルコニーのあるものばかりで,集合住宅の一般解がここでも一定のセオリーとなっている。しかしそのセオリーがもたらすことは,南側では十分な日当りがあるにも関わらず,昼も夜も開口部のカーテンを締めざるを得ない生活を強いることであり,北側では気持ちよく広がるビューへの拒絶である。
何らこのセオリーは,この立地に応える解となっていない。
<提案主題>
上記の問題点を踏まえ,本計画では共用廊下を北側ではなく南側の先端に設けて,南側の専用とも共用ともなり得るバルコニーと連続させた。また,そのバルコニーは各住戸の土間空間であるDKとも連続しており,各自の自転車の出し入れを簡便にするとともに,同じ趣味をもつ住人同士のコミュニケーションの場とすることができる。
この共用廊下と連続バルコニーによって,建物南側外壁から各住戸までの間に十分な距離を設けることができる上に,そこが共用部であることで前面の駅プラットホームからの視線を緩和することができる。
各住戸の南側に展開する共用廊下の提案は,共通の趣味を媒介とすることで「集合住宅の新たな形式」の一つに加えられると思われる。